助成事業の概要
参加者が年々増え、また開催する講座も多種多様となってきたため、安定的に事業に取り組めるよう「組織基盤を『ととのえる』助成」を3年間受けています。
点字はなかなか覚えられない
視覚障害者が文字情報を得る手段は「点字」と思われがちですが、中途障害者は点字を学ぶ機会が少なく、視覚障害者の点字の識字率は1割といわれています。そのため、情報の音訳が重要となります。視覚障害者がパソコンの音訳機能を使えるように、県内でも行政や公益団体などがパソコン教室を開催していますが、なかなか参加が継続しないという課題がありました。
群馬県視覚障害者福祉協会の活動に参加していた細渕俊彦さんは、点字を覚える難しさや、パソコンを使える視覚障害者が少ない現状を知り、「自分は視覚障害者だけど、パソコンは使えるし、人に教えられる」と活動を開始しました。
◆ぐんまパソコン倶楽部Webサイト→ http://gunpaso.com/
「視覚障害者が教える視覚障害者のための」パソコン教室
障害の特性を熟知して展開されるこの教室は人気を博し、たった5人だった参加者が、翌年には15人、25人、最多で47人にまで拡大しました。
今では、パソコンだけでなく、メモに欠かせない「ICレコーダー」、暮らしをサポートする「スマートスピーカー」や「スマートフォン」の使い方も教えていて、視覚障害者のニーズに的確に応えています。
さらに「もっといろいろやってみたい」という人向けに、英会話やヨガの教室も開講しています。ヨガはオンラインでも実施していて、パソコン教室でパソコンを使えるようになった人は、自宅にいながらヨガを楽しめるようになっています。
そして今回、桐生市医師会との協働で「エンディングノートの出前講座」が開催されることになり、取材に伺いました。
視覚障害者向けエンディングノートの試作
事の始まりは、共同募金会の助成申請説明会での事例報告です。桐生市医師会の小川貴之さんに「アドバンス・ケア・プランニング理解促進とエンディングノート普及事業」についてご報告いただきました。(助成レポート記事はこちら)
その際、説明会に参加していた細渕さんからこんな質問が出ました。
「視覚障害者向けの出前講座はありますか?私たちも『自分で』エンディングノートを書きたい。」と。
小川さんはこのときのことを、次のように振り返ります。
「今までは正直、自分で書けない人は、誰かに代筆してもらえばよいと思っていました。アドバンス・ケア・プランニングの考え方が、家族など大切な人との話し合いに重きを置いているので…。それでも、家族に知られたくない本音の部分は、誰にでもある。だとすれば、できるだけ自分で書けるように工夫したい。」
どんな状態の人であれ、どのように生き抜くかを意思表示する権利がある。ACPの根幹に関わることと考え、視覚障害者向けエンディングノートの試作版をつくることにしました。
「視覚障害者=点訳又は音訳」と思いがちなところを、細渕さんから点字識字率が低いこと等を教えていただき、MicrosoftExcel版で作成することにしました。
そして出前講座当日。
小川さんは、エンディングノートの項目の一つ一つを丁寧に、見えない人にもイメージしやすい言葉と順序で説明しました。
延命治療の内容についても、看護師の田村さんが順を追って、参加者が分かるまで説明してくれます。
質疑応答では、「臓器提供で、自分は角膜を提供したい。視覚障害でも角膜は提供できるそうだ。事前に何をしておけばよいか」と具体的に意思表明なさる方もいました。
活発に質問が出て、意見交換もでき、試作版ながらも手ごたえを感じた様子。
「今後もさまざまな状況にある人のACPを支援したい」と小川さんは語ります。
ぐんまパソコン倶楽部・副代表の東間さんは「自分の地域でも、同じ障害をもった仲間がいる。この出前講座をぜひ開催したい。」と早速依頼していました。
心が豊かになる、それがうれしくて
ぐんまパソコン倶楽部の活動を続けて10年。はじめは自分たちのための活動だったのが、今では自分たちと同じ状況にある人のための活動となり、一部は行政からの委託事業となりました。
細渕さんに、活動を続ける理由を聞くと、次のように語ります。
「ここに来る人はみんな、脱落せずに通い続けているので、パソコンがどんどん上達します。そして暮らしやすくなっている様子がわかるんです。視覚障害のある人が心豊かに暮らしていける、そのお手伝いができることが、うれしくて。」
私たち・共同募金会も、一人でも多くの人が心豊かに暮らせる地域を目指して、がんばろうと思います。
助成先情報