助成事業の概要
共同募金の助成金を活用して、令和5年度から3年計画で、会員の支援力強化と、地域防災講座、小学生向け防災講座などを各地域で展開していく予定です。
今回、助成事業の足掛かりとなる活動として、同会会員が支援者として参画する講座(高崎市主催の「地域ぐるみの防災講座」)を取材しました。
防災士は増えています
(日本防災士機構HP参照 https://bousaisi.jp)
防災士とは「自助・共助・協働」を原則として、社会の様々な場で防災力を高める活動が期待され、そのための十分な意識と一定の知識・技能を修得した人です。
2023年7月現在、全国で26万人超、群馬県で2,567人の防災士がいて、年々増加していますが、一方で、資格取得後に防災士として活動していない人が半数近くいるとのアンケート結果もあります。毎年のように発生する水害等大規模災害を機に防災への関心は高まりつつも、具体的なアクションに結びつきにくい現状があるのかもしれません。
群馬県支部の取り組み
防災士の資格を取得する際に防災の知識を学ぶけれど、それを地域に伝えてく方法や企画・ファシリテーションなどは資格取得後に、防災士自身が各々で試行錯誤している状況とのことです。
日本防災士会群馬県支部(以下「群馬県支部」)・支部長の赤羽潤子さんは、これまで一人の防災士として主に高崎市周辺で地域防災のワークショップなどを行政や学校と連携して展開してきました。
今後、この赤羽さんの取り組みを参考に、群馬県支部の会員が各地で講座やワークショップを展開していく仕組みを作っていく予定です。
県内を5ブロックに再編し、地域防災・子ども防災・福祉防災を軸に講座等を実施します。
防災講座で会員の支援力を育てる
赤羽さんが14年間講師を務めている高崎市主催の「地域ぐるみの防災講座」。高崎市中央公民館で毎年開催しています。
今年度は赤羽さん個人でなく、群馬県支部として受託し、会員も支援者として参画し、支援力をOJT的に育成することになりました。
今後展開する群馬県支部の取り組みの足掛かりになるこの講座の様子を取材しました。
参加者は区長、福祉施設職員、水害などが心配な地域にお住いの方など、多世代多様な方々です。
この日の講座メニューは「DIG・災害図上訓練」と「水害タイムラインの作成」。
DIG(災害図上訓練)をネット検索すると、その地域の地図を使って危険を先読みする訓練が出てきますが、今回は避難所となる公民館の平面図を使って、次々やってくる避難者の受入を想定する訓練です。次週の「HUG・避難所運営ゲーム」の前哨戦といった趣向です。
避難者が次々やってくる想定
ファシリテーターの赤羽さんが、発災直後から次々に避難所にやってくる住民の特徴を読み上げます。
「避難所が開設されました。受付も何もまだない状態です。」
「さっそく避難者がやってきました。20歳男性、ひとりで歩いてきました」
「35歳男性、32歳女性、3歳男の子発熱あり、車できました。犬もいます」
「90歳男性、88歳女性、60歳女性、男性は階段昇降できません」
次々読み上げる合間に、受付をつくったり、例えば発熱者を分けるなどのゾーニングをしたり…を同時並行で進めます。
各グループでは、子育て世代の視点、高齢者の視点など、参加者ご自身の経験を生かして意見交換。避難してくる人たちの強みも把握し、住民同士が協力しあいながら避難所を運営していけるよう、真剣に話し合っていました。
ファシリテーション・支援のコツ
ファシリテーターはけっして参加者に教えたり指示したりはしません。一見“ミス”のようなやり取りがあってもあえて“見過ごす”。参加者が自ら考えて判断し、振り返ることに意味があると考えて支援します。
災害支援のその場では、正解はないというか、すべて正解というか…。
成功もなければ失敗もない。体験したことはすべて次への備えになる、と考えるそうです。
参加者主体のワークショップを進めるうえで大切なコツだと思います。
参加者・木暮さんのコメント
「川の近くにある学童保育所の子どもたちを守れるか、心配になり、今回参加しました。」
高崎市内の学童保育に勤める支援員の木暮さんは、誰かに言われるでもなく、自主的に参加なさっていました。
さらに参加の動機をお訊きすると…
「実は友人を東日本大震災で亡くしまして…自分にもっとできることがあったのではと今でも思っているのです。」
そのことを忘れないように、時々こういった研修会に参加して学んでいると仰っていました。
群馬県支部会員・宇佐美さん
安中市役所入職時に防災関連の部局に配属され、1年足らずで東日本大震災を経験したそうです。その後、防災士の資格を取得。その理由を尋ねると、次のようにお話しくださいました。
「行政の立場だと言いにくいことも防災士なら言える、ということがあります。例えば災害支援は『自助7、共助2、公助1』だといわれます。そのことを、公助を担う行政からは積極的に言いにくいけれど、防災士として伝えることで説得力が生まれ、自助・共助を促すことができます。」
今は市議会議員として地域防災活動に取り組まれています。
災害時にあきらめないための支援
赤羽潤子さんは2000(平成12)年ごろから一貫して「福祉と防災」をテーマに活動を続けています。
ホームヘルパーの赤羽さんは当時、ヘルパー2級の勉強をしている際、テキストに「ホームヘルパーは災害時には支援をする。」と書いてあった一文が気になったそうです。ヘルパーが災害支援をする、ということの意味を問うべく、支援先の高齢者やマイノリティの方々に訊いてみたところ、返ってきた答えが一様に…
「災害時は、もうあきらめる」
赤羽さんは、「それではダメだ。誰にだって等しく人権はある。それを守りたい。」そう心に決め、防災士の資格を取り、地域防災に取り組まれてきました。同時期にNPO法人わんだふるを設立し、地域の居場所運営、食事サービス、買物支援、そして住民同士で支え合うアパートの経営と、住み慣れた地域で生き抜くための支援を展開してきました。
そして、2021(令和3)年に防災士会群馬県支部の支部長に就任し、群馬県内の防災士が地域に貢献できる活躍の場づくりと、その支援の仕組みづくりに着手しています。
10年前と変わらない
10年以上前、赤羽さんが活動する地域におじゃました際、赤羽さんは「あそこの家のおばあさんは毎日散歩していて元気」「あそこの人は心配」「外国の人で困っている人があそこにいる」と語っていました。
先日久しぶりに同じ地域を二人で歩きながら、赤羽さんが「あそこの家のおばあさんにおすそ分けしたら喜んでね」「あそこの人は心配」…と10年前と全く同じセリフを仰るので、思わず二人で大笑い。タイムスリップしたようでした。
全くブレないし、全く熱も冷めていない。
その思いに触れた10年前の自分を思い出して、自分ももっとがんばれるような気持になれました。
「福祉と防災」を切り口に、地域でその人らしく生き抜くための支援を続ける。
共同募金は、地域に根差した福祉活動を、応援していきます。
助成先情報