助成事業の概要
同会では、共同募金の助成を受けて、「アドバンス・ケア・プランニング」と、そのツールの一つとしての「エンディングノート」を、出前講座など市民の側に立って丁寧に広めていく取り組みに着手しています。
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは
もしもの時のために、その人が望む医療やケアについて前もって考え、家族や医療ケアチームと繰り返し話し合い共有する取り組みをアドバンス・ケア・プランニング「人生会議」と呼びます。
→厚生労働省「『人生会議』しみてみませんか」
エンディングノート「わたしのきぼう」
ACPを「人生会議」と名付けて国が推進を始めた平成30年ごろから、群馬県内においてもさまざまな啓発活動が各地で展開されました。
そんな中、桐生・みどり地域でも、医師・看護師・ケアマネージャー・介護職など多職種が連携して取り組み、「わたしのきぼう」を令和元年12月に作成しました。
専門職が手がけましたが、内容はあくまで市民目線で、書きやすさ・わかりやすさ・安心を心がけています。このノートをきっかけに、より多くの方々がACPに興味をもっていただければ…と願っています。
「出前講座」で丁寧に普及
2022年6月某日、みどり市で実施された出前講座を取材しました。
この日に訪れたのは「茶話会」、みどり市内で30年以上続く、高齢者のいこいの場です。
ふだんは、アコーディオン演奏に合わせて歌ったり健康体操をしたりして、楽しく過ごしていらっしゃいます。
体操で心身をほぐしたあと、いよいよエンディングノート出前講座の開始です。
単にノートに記入することを目的とせず、ご自身の人生に向き合うための大切な考え方を伝えることから始まります。
・自分のことは自分で決める(決めてよい)時代です。
・ご自身の価値観も含めて、大切な人と話し合っておきましょう。
・このノートは何度書き直してもよいです。例えば誕生日を機に毎年見直すのもいいですね。
エンディングノートは、死に向かうのではなく、これからの人生を自分らしく生きるためのツールであること。
また、高齢者だけでなく若い人にもこのノートが必要だということを、講師自身のノートの内容を明かしながら、わかりやすく伝えます。
例えば、講師の小川さんは、人参が嫌いだから、要介護状態になったときは人参を食べさせないでほしい、とのことです(*^-^*)
こうして、1ページずつ、専門的な項目もわかりやすく丁寧に説明がなされ、参加者個々人がその場で考えながら書き進めていきました。
◎受講者の声
今回受講した久保田さん(「茶話会」設立メンバーのお一人)は、普段お世話になっている息子さんのことを思いながらこのノートを書き、改めて、息子さんへの信頼や感謝の気持ちに気づけたそうです。
◎看護師・田村さんの思い
田村さんは、ACPについて、看護師仲間の間でも浸透していないと感じることがあるそうです。
一般の受講者でも「自分には関係ない」とノートへ記入しない人もいるとのこと。
一方で、実際に大切な人を亡くした経験者は、この取り組みの重要性を理解して下さいます。
ACP普及には、経験者が実感をもって広げていくことも大切かもしれません。
◎講師・小川さんの思い
ACPを広げていくプロセスは“認知症への理解のプロセス”に近いものがあって、10年・20年というスパンで取り組む必要がある、と小川さんは考えています。
「死」に対する負のイメージを変え、命ある限り自己決定権が尊重され、最後まで自分らしく生きられること。それが当たり前となる社会を目指す取り組みがACPで、エンディングノートはその入口に誘うための大切なツール。書く内容以上に、書こうとする行為が大切で、そのときに自分と周囲とが尊重し合えることが「人権」そのものなのです、と熱く語って下さいました。
死を通じて生に向き合う
私事ですが、筆者はつい最近、父を亡くしました。
自宅で看取ったのですが、覚悟を決めてそうしたというよりも、成り行きでそうなったという感じでした。だから、それが父の願いだったのか、それとも本当は病室で医療を受けているという感覚の中でその時を迎えたかったのか、正直、今でも分からないままです。
元気な時は「延命治療は受けない。自然に亡くなっていきたい。」と言いがちですが、本当の死を目前にしてそれを受け入れることは難しく、先進医療に期待するあまり、延命治療と回復治療との境目が見えなくなりそうになりました。父が元気なうちに、父の人生観にもっと向き合えばよかった…。
ACPを広めていくためには、人々のこういった生死に対する複雑な感情にも配慮できる専門性をもちながら、市民の参加性を高めていく必要があります。
桐生市医師会では、専門性の高い講師を育成しながら、出前講座を地道に展開し、ACPを市民ベースで広めていく活動を、今後も継続していきます。
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