助成事業の概要
そしてこのたび、念願のシェルター運営を共同募金助成により始めることができ、DVの被害者の相談→受入→自立支援を一体的に行えるようになりました。
今回は、伴走支援の一環で行っている、癒しと自立支援を兼ねた畑作業の様子を取材してきました。
※DV<ドメスティック・バイオレンス>とは(内閣府HPリンク)
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/dv/index.html
青空の下、裸足にて
5月某日、初夏を思わせる風が吹く青空のもと、太田市にある「農かふぇRice」の無農薬栽培の畑では、3人の女性が手作業で草むしりをしていました。
DV支援をする「おおた女性ネット」の支援者2名と、支援を受けている方1名。
「あ、今日は花が咲いている。前回は咲いていなかったよね」
「アオムシが葉っぱ食べてる~」
「木の下の方に、レモンがなっている」
裸足になって、心地よく自然を感じながら作業をしていました。
癒し×無農薬のwin-winな支援
「農かふぇRice」の長尾浩美さんは、おおた女性ネットが行う子どもの学習支援のボランティアさんです。
そこで、DV被害者や支援者の心身のつらさを知り、自然体験が癒してくれるのではと考え、裸足での畑作業を提案しました。
「DVは放っておけばどんどん深刻になってしまいます。本当に小さなことしかできないけれど、少しでも負のスパイラルから抜け出すきっかけになればと思っています。」と、落ち着いた声で謙虚に語られていました。
無農薬の畑作業でDV被害者や支援者がやりがいを感じ、そして癒される。こういった小さなwin-winの積み重ねが、支援の流れを着実に前に進めるのです。
ふつうのかかわりの中で日常を取り戻す
支援者の伊藤芳美さんは、おおた女性ネットの平井代表と同じ職場で、「シェルターを始めるから手伝ってほしい」と誘われて参加したとのこと。
「私は、特別な資格も持ってないし、経験者でもない、ふつうの人なんです。でも、そんなふつうのかかわりのなかで日常を取り戻すお手伝いができれば…と思って参加しています。」
山登りで「気持ちいいね。いい景色だね」、畑作業で「土があたたかいね。花が咲いたね」。疲れ果てた心に何気ない感情が染み渡っていく、そんな様子が目に浮かぶようなお話しでした。
経験者として気づくことを、実行する
おおた女性ネットは、代表の平井仁美さんご自身がDV被害者である経験から2014(平成26)年に活動を始めましたが、最初の事業は意外にも「子どもの学習支援」でした。そのいきさつについて、代表の平井仁美さんに伺いました。
平井さんは、ご自身が支援を受ける過程で“ステップハウス(※)”で1年間過ごしました。
(※シェルター等で緊急的に避難したあと、社会復帰するまで中期的に支援する自立支援保護の施設です。)
母親が自立に向けて働きに出かける間、ハウスで過ごす子どもたちがいじめ合うなど情緒不安定で、さらに学習が遅れていることが、平井さんは気がかりだったとのことです。
このままではまさに「負のスパイラル」、子どもたちまでもが社会から孤立してしまう。
そんな危機感から、平井さんは、ご自身の回復とともに子どもたちの学習支援を始めました。
学習支援にはひとり親家庭の子も多く通ってきていました。そしてDV被害が理由でひとり親になっている人も少なからずいました。
平井さんは活動主体を法人化して、本格的にDV支援を開始。当事者のサロン「キラリカフェ」や、相談・伴走支援などで当事者支援の経験を重ね、2022年に太田市初のDVシェルターを開設しました。
ニーズには波がある。だからこそ常に備える。
DVは、それが社会に表面化するまでの間、当事者さえも気づかぬまま人権を侵害していきます。
妻は夫に従うべきといった古い社会通念や、女性が自立しにくい社会構造など、“社会”がこの人権侵害を抱え込んでしまい、DVが分かったときには相当深刻な状況になっていることが多いのです。
2022(令和4)年は、DV相談等件数がDV防止法施行後最多となりました(警察庁HP掲載資料より)。
とは言え、1つの小さな民間支援団体がひっきりなしに支援ニーズを抱えるということではなく、量的にも質的にもニーズには波があります。
支援の方法も必ずしも緊急避難(シェルター)がベストというわけでもなく、人権侵害の程度やその人の生活基盤、今後の暮らし方の希望によって、支援の方法は千差万別です。本人の回復のプロセスも多種多様で波があります。中には精神疾患など深刻な状況となり、病院や福祉施設と連携した支援が必要となるケースもあります。
支援団体は、被害者一人ひとりに合った多様な支援をタイミングよく行うために、支援者・支援プログラム・場や設備と支援資金を、常に用意しておかなければなりません。ですから、支援実績のみに応じた補助や委託のみでは、当然に運営が行き詰まってしまいます。多くの方々の理解と民間の資金がなければ支援を継続できないのです。
人権の砦のようなこの活動を、市民の手で築いていく。
人権は誰かに委ねるのでなく、市民の意志で守り抜く。
こういった市民の営みを、公(行政だけでなく、さまざまな立場の人たち)でどのように支えていくかを、みんなで考えていくべき時代になっているのではと感じています。
共同募金はこれからも、市民が気づき、自発的に動き出す活動を、応援していきます。
助成先情報