助成レポート 社会課題

【助成担当レポート】医療の先にある患者の尊厳を守る~一人の困りごとを、みんなの課題に~

助成事業の概要

特定非営利活動法人群馬がんアカデミーは、医療従事者に対する教育支援をはじめ、「さまざまな立場から患者さんを支える」を目標に、地域において開かれた組織として活動展開しています。
法人を設立して間もなく20年、長らくは医師等への研修・研究事業を中心に行っていましたが、ここ1~2年は患者支援や一般市民への啓発なども積極的に展開するようになりました。
2024(令和6)年度は共同募金助成事業として、患者支援活動及び「がんアカデミーサミット」を実施。イベントの様子を取材しました。

 

がんアカデミーサミット会場入口

 

社会課題は、一人の困りごとから

10月5日(土)、小雨が時折降るなか「がんアカデミーサミット」は予定どおり午前10時から順調に進んでいました。筆者は午後から参加。
本会場に入る手前のロビーで、一つのブースがありました。
「しびれ」についてのアンケート
このアンケートに取り組む吉野さんにお話を伺いました。

がん治療で「しびれ」に悩む人の実態把握をするために動き出した吉野さん

吉野さんは、抗がん剤治療の影響で「手足のしびれ」が残り、歩行に苦しんでいました。
浮き指でつま先が接地せず、バランスがとれずにペンギンのような歩き方にならざるを得ない状況。
同じ症状で悩む人が少なからずいるはずなのですが、この「しびれ」についてはがん治療そのものではないためか、命を守る最前線の医療現場では置き去りにされがちだと感じているそうです。
がん治療が進み、命は生かされたけれど、諸症状に苦しんで外出が億劫になり、引きこもってしまう人も少なくないとのこと。
動けず、食欲も体力も落ち、暮らしぶりが一変する。生かされた命を消耗するだけになってしまう。

吉野さんは、ご自身がスキーなどのスポーツをしていた経験から、足や体幹のバランスのことに詳しく、今のご自分の歩きにくさを具体的に“言語化”して伝えることができました。
そして、アスリート向けの装具士との出会いで、言語化した歩きにくさをインソールというカタチに変えることができ、足のしびれによる暮らしにくさを補うことができました。
それでも、しびれが治るわけではありません。
がん治療に伴うしびれについて、もっと情報を集め、患者の現状をもっと客観的に表し、今の暮らしにくさの“何か”を変えたいと思い、今回のがんアカデミーサミットを機にアンケート調査を始めました。

 

つなぎ手・代弁者・促し役

吉野さんを装具士とつなぎ、またアンケート調査という市民活動に導いたのは、NPO法人群馬がんアカデミーの事務局を担う岡田さんです。

群馬がんアカデミーの企画を切り盛りする岡田さん

岡田さんの本業は外科教授秘書で、がん治療の情報に詳しく、また医師と患者の双方の立場を知る“つなぎ手”です。
診察時に後回しにされがちなこの「しびれ」についても、実はさまざまな研究調査がなされ、さらに医師たちも実は関心を持っている、ということを知り、岡田さんは今後さらに情報収集を進めていくそうです。
岡田さんは、患者の困りごとの代弁者であり、医師のやる気を引き出すファシリテーター(促し役)でもある、と思いました。

 

能動的に患者が自身の病に向き合う

今回のがんアカデミーサミットは「重粒子線がん治療施設見学会」との合同開催です。
岡田さんは、今回のサミットを企画するにあたり、真っ先に取り組んだのがこの見学会とのコラボレーションでした。

同時開催の重粒子線がん治療施設見学会

大学附属病院で治療を受けるいわば受け身の患者が、隣の敷地にあるアカデミア(大学、研究)に一歩踏み出し、能動的に自身の病気に向き合う。
そのことを体現すべく、コラボレーションしたかった、と岡田さんは語ります。
高校生向けがん治療体験、市民公開講座、クラシックコンサート、アピアランスケア、カウンセリング、アートワークショップなど、がん治療に関わる当事者や関係者が能動的に知性や感性をフル稼働させて、企画が出来上がっていきました。

会場の様子

「生きる」を伝える写真展

 

フィールドワークと感性

これらの企画のきっかけやひらめきは、岡田さんご自身が“フィールドワーク”と称する諸活動への参加から得ているとのことです。
例えば乙女温泉(乳がん経験者との温泉での交流)など患者との交流を欠かさず、そこで知る患者の思いや困りごとなど、どんな小さなことにも気づき、拾い上げ、感性に委ねる。
そこで感じたことを、躊躇なくカタチにしているのだと思います。
特に、アピアランスケア(治療の過程で頭髪を失うなど見た目に配慮するケア)を積極的に展開する「One Diary」の角田さんとの連携は、当事者の声を採り入れて情緒豊かな事業を展開するうえで重要な役割をもっているのだと思います。

「One Diary」代表の角田さん

アピアランスケアの展示

一人の困りごとを、みんなの課題にする力。
群馬がんアカデミーの市民活動の原点は、小さな困りごとにも躊躇せず向き合い、医療の専門性を市民の力で開放していくことにあるのだと思います。

共同募金はこれからも、社会課題を解決するための市民活動を、応援していきます。

 

助成先情報

特定非営利活動法人群馬がんアカデミー
群馬県前橋市昭和町三丁目39番地22 群馬大学医学部総合外科学気付
https://surgery.med.gunma-u.ac.jp/npo/

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